2012年07月18日

効率ばかり追求すると利益が減る





女の人の「好き」には騙されっぱなしですが、

最近は騙してもくれません(泣、



小橋川大介です。






世の中、

“経費削減”という策を代表とする「効率の追求」が蔓延している。



僕は昔から「効率ばかり追求すると利益が減る」と考えてきた。

特に今、

企業が成功を収めようと思ったら、

アップルの『iPad』のように革新性の強い商品を作り出すか、

ディズニーランドやリッツ・カールトンのように、

突出したサービスを提供するかの2つに1つしかないと思う。

でも日本の企業の多くはどちらも出来ずに伸び悩んでいるのが現状でしょう。



なぜそうなってしまったのかと言えばやはり、

効率を追求し過ぎた事だと個人的に思う。



例えば、

僕が長年携わってきた飲食店を例に推測・検証すると、

近年の飲食店の多くは薄利多売である。

安売り合戦を繰り広げた結果、

自ら首を絞め悲鳴を上げている状態になっている。

毎日のオススメ、毎月のメニュー変え、

毎回毎回、新しい料理やドリンク、面白い企画を考えるのは大変だ。

そこで多くの飲食店経営者や店長がインターネットを頼ることになる。

美味しそうな料理、面白そうな店舗はないか、

若者の間で流行しているものは何か、人気の高い店舗はどこか……。



インターネットは一見ネタを効率的に収集し、

効率的に企画を考えるために最適のツールのように思える。

しかし飲食店の多くがインターネットを使ってネタを検索するようになってからというもの、

提案されるメニューや企画は似たり寄ったりのものになってしまっている気がする。

その結果、

ますます似た飲食店が増え、客は分散し、

突出したキラーコンテンツを持った店やターゲットを絞った店が1人勝ち状態だ。



これも世の中が過度に効率を追求するようになった結果ではないだろうか。



皮肉なことに、

効率的に儲けようとすればするほど、

画一的なものしか生み出せなくなっていき、

企業の売上も利益も下がっていく。

近年の日本の電機メーカーの業績悪化がその見本だと思う。



「じゃあ非効率こそ結果として効率的ということなのか?」



との声が聞こえてきそうですが、

参考になるのは1999年に創業され、

2009年11月に12億ドルの評価額でアマゾンによって買収された、

アメリカとカナダで靴や衣料、

アクセサリー等を販売するオンライン小売会社『ザッポス』の経営ではないでしょうか。



ご存じの方も多いとは思いますが、

ザッポスは創業わずか10年目で年間売り上げ1000億円を達成した靴の通販会社で、

ザッポスの経営は一言で言うと“脱マニュアル”です。



一般的に電話による注文受け付けの場合、

機械の音声ガイダンスがあり、

最後に登場するオペレーターもマニュアル通りの対応しかしません。

ところがザッポスにはマニュアルが存在しない。

オペレーターは顧客と自由に会話を楽しみ、

1件の注文を受け付けるのに数時間も費やすことさえあるそうです。



興味のある方はぜひ読んでみて欲しいのですが、

『ザッポスの奇跡』という本に、

ザッポスのサービスに感動したある女性のエピソードが載っています。



それを抜粋しますが、

その女性は病床の母親のためにザッポスで何足か靴を買ってあげたが、

母親の病状が悪化して亡くなってしまった。

悲しみが冷めやらぬ中、

ザッポスから靴の具合を尋ねるEメールが届く。

その女性は、

母親が亡くなってしまったので靴を返品したいこと、

返品期限を過ぎてしまったかもしれないがもう少し待ってもらいたいこと、

をメール返信したところ、

すぐに「宅配の集荷サービスを送ります」という反応があった。



ザッポスでは返品時も送料無料サービスを行っているそうですが、

通常は購入者が集荷場まで靴を持っていかなければならないそうで、

その規則を曲げて自宅への集荷を手配してくれたことに女性は驚き、感謝した。



だが話はここで終わりません。



翌日、

女性の玄関先にお悔やみの花束が届けられ、

ザッポスからのメッセージカードが添えられていたというのです。



女性は、自身の体験をブログに書いた。



「感極まって涙がこぼれました。

人の親切には元から弱い私ですが、

今まで人様からしてもらったことの中で、

これ以上に心を打たれたことを思い出せません。」



ブログの締めくくりは、

「もしネットで靴を買うのだったらザッポスから買うことをお勧めします」

でした。



結果的にザッポスの良い宣伝になったブログ記事だけど“やらせ”ではありません。



この女性に対応したオペレーターの社員が、

「肉親を亡くした人の悲しみを少しでも癒してあげたい」

という、

ごく人間的な気持ちに従って行動した結果なのです。



このエピソードを読んで上記の、

ディズニーランドやリッツ・カールトンの、



“突出したサービス”



を思い浮かべた人もいると思います。

それは正解というか正しくて、

ザッポスは“サービス”を売り物にしている会社で、

ついでに靴も売っているということなのです。



マニュアルとはまさに、

効率を追求するツールの象徴で、

誰がやっても最短の時間で同じ結果が出ることを目的にマニュアルは作られます。



ところがザッポスのやり方は正反対。

その脱マニュアルの経営が顧客を熱狂させていると言っても過言ではないでしょう。



ザッポスを見ていると、

ちょっと前までは考えられない、



“非効率こそ結果として効率的である”



というパラドックスに満ちた時代になったとは言えないでしょうか。






じゃあザッポスの話を踏まえて聞きたいのが、



“アメリカはなぜ松坂大輔やダルビッシュに何十億円も払えるのか?”



という疑問を抱いたことのある人はいませんか?



1人当たりGDPは日本とアメリカはほぼ同じ。

日本の名目GDPは約6兆ドルで、人口は約1億2800万人。

アメリカの名目GDPは約15兆ドルで、人口は約3億1000万人。

大まかではありますが、

この数字を基に1人当たりGDPを計算してみると、

日米ともに5万ドル弱となりほとんど差がないことが分かります。



記憶に新しいダルビッシュ有投手は今年、

テキサス・レンジャーズと6年間の年俸総額約6000万ドル(46億円)で契約を結びました。

なぜ大リーグの球団はこれほど高額の契約金を支払うことが可能なのだろうか。

単に大リーグの球団が金持ちだからだろうか。

GDPとは1年間に企業が生み出した付加価値の国内での総額のことである。

そしてどの企業も生み出した付加価値のかなりの部分を従業員に対して給与として支払っている。

日米の1人当たりGDPがほぼ一緒であるということは、

日米の平均賃金もほぼ一緒であると考えていい。

でもダルビッシュのみならず、

アメリカで活躍する有名人や企業経営者達は、

日本人から見れば信じられないほど高額の年俸を得ている。



例えば上記のウォルト・ディズニー前会長だったマイケル・アイズナーの年俸は約5億ドルだったはずだ。

当時の為替レートは約120円だったから、年俸約600億円ということになる。



日米の平均賃金はほぼ一緒なのに、

企業のCEOや野球のスタープレーヤーには破格の年俸が支払われているということは、

当然その他大勢の人々の給与はその分低いということになる。

アメリカでは貰う人と貰わない人とのギャップがかなり大きいということが分かってくる。

高給を支えるのはマニュアルで働く人々ということだ。



じゃあそのようなギャップが生じるのはなぜなのか。



ここから先は僕の推測ですが、

多民族国家であるアメリカでは、

多くの職種でマニュアルが高度に発達している。

異なる文化を持つ人々の集団に仕事を教え込もうと思ったら、あうんの呼吸など期待出来ないから、

徹底的に論理的なマニュアルを作る以外に方法はないでしょう。

マクドナルドは僕の中でマニュアルの象徴的な企業ですが、

アメリカ人が作るマニュアルは、

世界中どこでも誰がやってもオペレーションが出来るような高度な論理性を備えていると思う。

だから誰がやってもほぼ同じ成果が出せる。

そして同じ成果を出す人材は代替可能な人材だから、

そうした人材の給与は低く抑えられるということになる。



反対にこの人しかいない、出来ない、というような、

能力差が成果に大きく反映するような仕事、

例えば企業の経営者や野球選手や営業職、トレーダー、研究者などには、

高額の報酬が支払われることになるのではないでしょうか。



こう推測をしていけば、

ダルビッシュが6年間で46億円という年俸を受け取ることも理解は出来る。






最後になりますが僕が思うに、

革新的な商品やサービスを生み出せるのは従来型のエリートではない。

むしろ職場の“異端児”だと思う。



1日中イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴いている奴。

いつも外回りと称して社外をウロついてばかりいる奴。

仕事はろくにしないのにフェイスブックの友達の数が異様に多い奴。

社内ではパッとしないのに社外では有名な奴……。



こんなちょっと怪しげな連中こそ、

実は斬新な商品やサービスを生み出す可能性を秘めていると思う。

もちろん結果的には単なるダメ社員で終わるかもしれないが、

少なくとも日常的に決まっている仕事を効率的にこなすだけの優等生よりも、

将来会社に大きなメリットを与える可能性は秘めていると思うのは僕だけでしょうか。



一見、社業と無関係な突飛なことを考えつく変人変態社員(笑)を、

企業はずっと抱え続けることが出来るかどうか……。



企業の未来は、

その“ムダ”に懸かっているような気がしてならない。






【今日の写真】


題名

『歳がバレるノート』

効率ばかり追求すると利益が減る








Posted by 小橋川大介 at 22:07